小豆島実地調査もようやく目途が立ってきたようだ。本部長の期待に応えるべく、いや、社会の歯車として起動するために、島内一周を目指す。ここで島内に雲隠れすることもできるが、それは私の良心が許さない。幼少のころからの道徳教育が魂に沁み込んでいるようだ。
絶景の美観:寒霞渓へ
観光コンテンツ | 小豆島観光協会【公式】 (shodoshima.or.jp)
東進を続け、「オリーブ公園」まで到達した。ここからは毛色が少し変わり、山岳戦に突入する。島の中心部に進み、「寒霞渓(かんかけい)」を目指す。
地図の通り、島の陸地を開拓していく。今までは、海の見える景色が広がっていたが、これからは、山の美しさを御覧に入れよう。山の小豆島、といったところか。
オリーブ公園からは車で40分ほどであったろうか、なかなかに険しい道のりを進んだ。しかし、夏の緑に彩られた山道は美しく、気温も標高のおかげで涼しい。自然派の私にはうってつけの場所となっている。紅葉の季節なども美しいのではないだろうか?
無事、寒霞渓に到着し、展望台に向かう。島の観光名所のようで、多くの人で賑わっている。売店も多く、島の土産やレストランも完備されている。この景色で茶など一杯すれば、風流であろう。
展望台からの景色は、私を虜にする。視界に広がる壮大な風景。世俗の憂さなどは吹き飛んでいきそうな心持がする。最も飛んでいきはしないのだが。誠に無常なものである。だが、この憂鬱を味わいながら人生を全うするのも悪くないだろう。
私を圧倒する自然に目を奪われる。眼下に広がる雄大な大地と海。小豆島が作り出した、大いなる美観よ。これほどの自然が埋もれているのはもったいない気もする。しかし、埋もれているからこその美しさなのかもしれない。
寒霞渓の美!
小豆島の魅惑よ!
常に汝を
酔わしめてあれ!
一通り、悦に酔ったところで我に返る。目的を忘れてはいけない。しかし、この寒霞渓は人生の義務を丸ごと飲み込むかのような寛容さがある。いつまでもうっとりできる美観地区だ。人を狂わせるほどの自然か。侮れないな。
小豆島の美食を味わう
さて、社会の義務に戻ろう、諸君。次なる目的地は、と言いたいところだが、このあたりで昼飯を食らおうと思う。せっかく小豆島にいるのだから、魚介をいただきたいものだ。
そこで、島の東に位置する「坂手(さかて)港」で飯屋を探そうと思う。
飯を求めて三千里。寒霞渓から一気に南下し、港を目指す。飯だ、飯が私を呼んでいる。飯をかき込むことしか、もう考えられないのだ!私に飯をかき込ませてくれ!本部の任務どころではない。私の命が、魂がかかっているのだから。社会的承認など、もはやどうでもよくなっている。生存本能が叫んでいる。
さあ!
とにかく駆けろ!
駆けに駆け、
たらふくと
飯を食らうのだ!
空腹で気が狂いそうになりながらも、島内を駆け、一気に坂手港まで南下した。もう周囲の景色どころではなかった。「飯、飯ぃ…」と目もぎらついてきた。他人の飯に手を伸ばしそうな勢いである。ここに道徳は存在しない。強欲が私を支配する。
坂手港にたどり着き、血眼になって飯屋を探し出す。そして我がオアシスの「大阪屋」を見つけ出す。とにもかくにも腹を満たさなくっちゃいけないよ、君。この年季の入った感じが良いんだよなぁ。さらに、魚介も扱っている。これ以上ないことだ!
昼飯時でかなり混雑している。皆、飢えているのだ。飯は人類の命。欠かすことのできない蜘蛛の糸だろう。私もその一人だ。そして、うなぎセットとハモ天を注文していく。食らい尽くす。むしゃぶり尽くす。骨の髄まで。
美味、まさに美味であった。海の幸をガツガツとやらせてもらった。さすがに瀬戸内海に浮かぶ小豆島。海の幸も豊富だ。腹ごしらえも済み、戦の準備は整った。さあ、実地調査を続けよう。
次の目的地は、島の北に位置する「大阪城残石記念公園」だ。小豆島は石切り産業が盛んにおこなわれ、各地に石材を供給してきたそうだ。大阪城の石垣もこの島から切り出され、運搬されていったようだ。
島の北方に進撃を開始する。険しい山岳道を走破し、海岸線を駆け抜ける。次第に疲労も重なってくる。所々で休息をとりつつ、歩を進める。海沿いと山岳ルートの2つがあったが、ここは山地を選択。生まれは山の人間。私の血が、心が山を求めている。
1時間以内になんとか攻略地点に到着。小豆島の石切り産業について学ばせてもらおう。
無事に記念公園に到着。祝杯のコーヒーを一杯やる。雲が少し増え始め、風が心地よい。ここでは、小豆島の石切り産業の歴史を学ばせてもらう。無料の学び舎になっている。これなのだ、諸君。教育はいつの時代も、人間を作るということなのだな。
資料館の中には、当時の石切り作業の掘削道具や運搬用具が保存されている。ここから石を切り出し、本州まで輸送したということには驚く。重い石材に船が耐えられたのだろうか?危険と隣り合わせの航海だったはず。遣唐使を思い出す。危険な航海。そこにはロマンなど感じる暇もなかった。
資料館の外には、切り出された石材の姿が。野暮ったい石材も人の手を加え、磨き上げると1つの美しさを持つ、芸術品に生まれ変わる。職人の偉大さだろうか。城と人。1つの城造りにしても、数えきれないほどの人員がいる。歴史に残らなかった多くの人々が。
一通りの勉強を終え、海を眺めながら休息。昔の職人も休憩がてらに、この海を眺めていたのだろうか。多忙に襲われる社会での、つかの間の休憩。旅行も同じか。今では増えすぎた娯楽に戸惑うこともある。いやはや社会とは複雑怪奇なものだ。人間は常に現在を憂い、過去未来を希望にするということだろうか。
島の北側にある記念公園を満喫し、目的地のすべてをまわることに成功。後は、土庄港に戻り、レポートをまとめる。それが終わると無事に帰路につける。
記念公園を出発し、そのまま西進し、土庄港を目指す。本部長の強権から始まった実地調査もこれでおしまい。しかし、小豆島の実情をこの目で確かめることができたのは大きい。島の生活などそうそう拝めないものだ。数十分で土庄港に到着。
船の乗船手続きを済ませようとすると、以下のメールが入っていた。
岡山県で、きな臭い噂を入手。至急、小豆島から岡山県にわたり、かの地の実情を報告されたし。これは全ての業務よりも優先される案件である。滞在費は自腹、調査期間は3日間。早急、詳細なレポートを求む。
本部長 ヨーゼフ・K
諸君、これが社会の歯車というものだ。このように使い込まれ、古び、錆び、朽ちていく。なるほど、この底辺感が良いんだよなぁ。大いにやってやりますよ。
独り言をごち、岡山への乗船チケットを購入する。悲しいことに乗船の空きはたんまりとあった。まだまだ我が家には帰れない日々が続きそうだ。
さらば、小豆島!
瀬戸内海の巨島!
壮大さと美しさに
酔う楽しさよ!
~小豆島編 完~