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とある日本人労働者の週末

今日も週末を迎えることになった。普段の休日は水曜日、日曜日だが、今回は土曜日、日曜日の休日となった。そのため念願の金曜日の夜に繁華街へ出掛けるという夢を果たすことができる。これは非常に嬉しい報告だ。さて、限られた時間で何をするかを考えなければならない。平日の昼休みは、そのことだけが私の頭を支配した。酒、食い物、人々の喧騒。妄想がどんどんと膨らんでいく。私は自由を手に入れることができる。しかし、それは有限の自由となる。今回は、夜の街を彷徨いながら、レストラン、カフェ、バーに行きたいと思う。すでに気持ちが高ぶってきている。これほどまでに休日が待ち遠しいことがあっただろうか。これまでの休日は主に自分の趣味に没頭し、金を使わないことばかりであった。そのため、久しぶりの散財となる。気持ちの良い散財だ。これでまた人生の思い出が一つ増えるだろう。楽しみ、歌い、空想する。夜の街、月明かり、人々の往来、宵の静寂。全てが私を快楽へと導く。おお、待ち焦がれた休日よ!汝の、汝の幸福を私に授けてくれ!

帰宅を急ぐ車、遊びに出かける若人、飲みに繰り出すサラリーマン、様々な人々の休日がそこにある。私も一つの休日をここで作り出す。欲望と遊興にまみれた休日だ。ネオンが眩しい街並み。煌々と輝く。夜の太陽がここに出現している。湧き上がる欲望を抑えながら私は歩き続ける。一人で呑みに行くのか?という疑問があるだろう。無論。一人こそが至高なのだ。一人、孤独に沈みながらガツガツと飯を食べる。酒をグイと飲み干し、思索の海に沈んでいく。この黄金習慣こそ我が人生の使命。この使命を果たさなければ、八百万の神が私に罰を与えるだろう。そのような罪を背負って生きていくことも悪くはない。罪人として荒野を彷徨うのさ。悪くない、悪くないぞ。渇望こそが私の原動力になっている。人々は何を原動力に生きているのだろう。欲こそが人類繁栄の源ではないか?さあ、思索の時間になったようだ。

フラフラと彷徨いながら、目当てのレストランに到着した。カフェバーと店にはある。欧州風料理が自慢の店のようだ。日本にいながら欧州を感じることができるとは、なんともいい時代になったものだ。現代の魅力というものなのか。現在、夜の7時。私以外の客は見当たらない。店内に侵入すると、若い女性店員が迎えてくれた。自由な席にどうぞ、という案内を受け、角の席に腰を掛ける。白を基調に、モダンに整えられた店内。明るい洋楽が店内を盛り上げている。全てが明るく設定されている。そこに闇属性の私がポツンと、存在している。なんとも対照的な絵画だろう。これは現実が作り出した絵画なのだ。ぜひとも画家に描いてもらいたい。光あふれるレストランと闇を纏いし工場労働者だ!おお、資本主義の副産物よ!これこそ社会の縮図となるだろう!資本主義の波に乗り遅れてはいけない!さあ、大海へと漕ぎ出す時だ!何を食う?何を胃袋に放り込む?すでに思索の時間は始まっている。飯1つにも己の哲学を反映させろ!今日の食事は2度と来ることはないのだから。緊張と圧迫の時間が来る。それに圧倒されてはいけない。圧倒的な敵を前にしても、戦わなければならない時がある。それが今だ!決断は下された。今回はイギリス色に染まることにする。つまり、フィッシュアンドチップスである。そして、シャーリーテンプルを供に据える。シャーリーテンプルはアメリカ由来のカクテルだそうだが、そんなことは今は些細なことだ。不服のあるものは断頭台が用意されるだろう。飯にも哲学を織り込むのではなかったか?

ついに宴の時だ。私は空腹に支配され、目の前の飯を胃袋に叩き込むことしか頭にない。平日の労働の対価がこの飯というのか。贅沢、貧相、相対的にならざるを得ないこの評価。金銭の多寡で人生の評価が決まる。おお、悲しき資本主義よ。しかし、汝は我に多くの物を授けた。全てが悪などとは到底思えない。拡大と成長の下に、無数の躯があろうとも君は進み続けなければならない。それこそ君の使命だ。資本主義の恩恵を食らうとしよう。フィッシュアンドチップスは大学生の欧州旅行以来か?懐かしさが込み上げてくる。至福と懐古、欲望と絶望。感情の洪水が起こっている。この感情と共に一夜を過ごそう。そして、この思索をさっそく書き留めることしよう。肥溜めのように積みあがる私の著作。書くことが私に活力を与える。脳を、精神を活発にする。力がみなぎってくるのだ。食うぞ!表面はカリカリに仕上がっている。鋼鉄の衣の中には、ふわふわとした魚の白身が隠れている。サクサクした触感と白身魚の柔らかい舌ざわり。まさに!至高の瞬間である!食が進む。私の思索のように。ガツガツと食らいつくす。軍隊が行進するように、整然と食べ進めていく。この行進は止まらないだろう。欲望に終着点はない。この蜜を一度味わうと、沼からは抜け出せない。ひたすらに底を目指して沈んでいく。底などどこにもないのだが。チップスは細く、日本人好みになっている。英国のチップスはどのようなものだったか。思い出せない。しかし、英国の食事は美味しかった。周囲の人間は不満の声を漏らしていたが、食に頓着のない私は美味しく頂くことができた。何事も贅沢な経験をしてしまうと幸福が薄れるのだろうか。舌を肥やすな、飯がまずくなる。店員から味を変えるビネガーをもらった。そして、タルタルソースも付いている。これで味に飽きるということは起こらないだろう。存分にフィッシュアンドチップスを楽しむことができる。多くの味を一度に味わいたいということも、一種の贅沢になるのだろうか。もっともっと、と私は求めてしまう。これは悪癖に繋がると同時に、自己の能力を高める一因にもなる。批評の難しい点だ。何事も主観によって決められていく。ガツガツと食らいながら、時折、シャーリーテンプルで箸休めをする。炭酸が食道から胃に流れ込む感覚。強烈な一撃だ。平日の労働の疲労を流し込んでいく。これは一種の麻薬になりえる。アルコールで平日の鬱憤を晴らし、また労働に戻っていく。徐々にアルコールの量を増やさなければ酔うことができない。そして、依存の闇へと入場する。幸いにもチケット代は酒瓶程度で安くなっている。誰にでも門戸は開かれている。平等主義だ。依存症の多様性だ。おお、現代の自由主義がこんなところにも。社会の光と闇をじっくりと観察していこうじゃないか。観察眼を磨き、繊細な精神を手に入れるのだ。汝、それが役に立たなくとも、徳という偉大なる存在に向かうのだ。渇望が、渇望こそが私を新たな境地へと導く。これだけ食べれば今日はもう何も望むまい。執着は苦しみに繋がると仏陀も仰っている。執着からの解放か。難しいものだ。特に食欲は難しい。これだけはどうしようもない。食欲のない食事は害そのものだ。自らの寿命を縮める。しかし、そこには何かが存在しているのだ。食欲を生み出している影の存在が。突き止めるのだ。明らかにして、それらを始末しなければ。

満腹になったところで、次の店に向かう。空腹の際は様々な感情が渦巻くことになる。過去の後悔、現状への不満、未来への不安。これらは、肉体・精神の不安定な時に生まれやすい。解決策はある。飯を腹一杯食ってみることだ。生理的満足が充足されれば、マイナス感情は不思議と消えていくのである。生物的な本能とでもいうのだろうか。食料の確保ができれば、一定の期間は生存することができる。しかし、また定期的に空腹はやってくる。だが、攻略法はすでに発見している。もう二度とこの感情に振り回される必要もなくなる、平。穏な日々を取り戻すことができるだろう。何も心配することはない。さて、これから向かうところは、夜カフェというものだ。夜から深夜にかけて営業している。これは闇属性の私にとっては朗報だ。夜の静かな時間の中で、穏やかな店舗、温かいコーヒーとケーキ。至福の時間が到来する。忙しない生活の中でも、平安の時間は必要だ。天からその時間は降ってこない。自ら作り出していくしかない。今日はその念願が叶った。十分に楽しませてもらおう。商店街の中にひっそりと佇むカフェ。早速、入店する。どうやら人気店のようだ。回転して間もないというのに、ほとんどの席が埋まってしまっている。しかし、カウンターの一席を確保することができた。注文を済ませ、店内をじっくりと観察する。客層としては、若い女性が多い。甘いものを食べに来ているのだろうか。スイーツは女性に欠かせないものなのかもしれない。甘いものとおしゃべりは至福の時間なのだろう。私にとってもこの二つは、なかなか楽しませてくれる。最も、おしゃべりする機会は、昔と比べてかなり減ってしまったが。

私の幸福感を満たしてくれる存在の登場だ。抹茶ケーキとブレンドコーヒー。甘いものは別腹とはよく言ったものだ。これで本日の店巡りは終了だ。労働の日々からの解放。そして、また労働へと帰っていく。日常が戻ってくる。非日常は終わるが、何も日常が苦痛というわけでもない。これは非常に重要なことだ。日常に飽きてしまったものは、過剰な刺激に走ることになる。日常をもっと楽しむことを考えなければ。つまりは労働を楽しむということだ。次回の店巡りはいつになることやら。しばし、孤独で、陰気な、インドアライフを満喫するとしよう。

【完】