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【Audible聴読】 感想記事 黒いイギリス人とは 帝国の見えざる闇

「イギリス人=白い」という思い込みを、歴史が静かに破壊する


平田雅博 著 2025/4/10
『黒いイギリス人の歴史
忘れられた2000年』

「イギリス人」と聞いて、
無意識に“白い顔”を思い浮かべる。

もし少しでもそうなら、
この本はまず、そこにメスを入れてくる。

本書が扱うのは、
いわゆる“在英黒人の近現代史”
にとどまらない。

古代ローマ期のブリテンから、
帝国の拡張、奴隷制、世界大戦、
戦後社会までを見渡し、

「黒いイギリス人(Black British)」が、
どのように存在し、どのように
忘れられてきたのか
を、
通史として組み直す。


1)この本の強みは「時間の長さ」と「空間の広さ」

本書が一般的な通史と違う点は、
ざっくり二つに要約できる。

時間の長さ:近代移民史だけでなく、
ローマ期から視野に入れる
(“昔はいなかった”という逃げ道を塞ぐ)

空間の広さ:ブリテン島の内部史だけでなく、
帝国の外縁まで含めて
「黒いイギリス人」を追う
(“国内の多文化”という
綺麗な話で終わらせない)

この2つが揃うと何が起きるか。

イギリス史の「光」
(自由・近代・紳士)と

「影」(支配・分断・排除)が、
同じ写真の中に写り込む。


2)章立てがそのまま“イギリス帝国の影絵”になっている

章題だけでも、
著者の狙いがはっきり見える。

第1章:ローマ期〜近世
(「最初の来訪者たち」)

第2章:18世紀前半
(逃亡奴隷の輪郭をデータから追う)

第3章:18世紀後半
(ロンドンの黒人貧民と
シエラレオネ植民計画)

第4章:19世紀
(奴隷解放の後に起きた
「見えなくなる」現象)

第5章:20世紀前半
(世界大戦の動員=忠誠と差別の同居)

第6章:20世紀後半
(戦勝国の“旧弊”=戦後の現実)

終章:「イギリスらしさ」を担うのは誰か

この並びは要するに、
「帝国にとって都合のよい時には使われ、
都合が悪い時には消される」

という反復を、
2000年スケールで見せてくる構造だ。


3)“声なき声”を拾う、という歴史学の作業が前面に出る

黒人の歴史は、往々にして
当事者の記録が残りにくい。
残っていても断片的だ。

だからこそ本書は、
限られた史料をつなぎ、

権力側の記録に偏りがちな
歴史叙述の隙間から、
当事者の主体性を復元しようとする。

ここで読者が得るのは
「知識」だけではない。
歴史を読む目――つまり、

何が記録され、何が消されるのか

誰の言葉が“公的”とされ、
誰の言葉が“無かったこと”にされるのか

という、現代にも
そのまま通用する批判眼だ。


半隠遁生活への応用:この本は「距離の取り方」を教える


半隠遁は、山に籠もる技術ではなく、
世間のテンプレから
距離を取る技術
だと思っている。

その意味でこの本は、
半隠遁者にとって
「社会観察の教科書」になる。

実践①「思い込みの自動補完」を止める訓練

イギリスを“白い国”として
自動補完してしまうのと同じで、
私たちは日常でも、
世界を勝手に補完している。

  • 「この職業はこういう人」
  • 「この国はこういう文化」
  • 「成功者はこういう物語」

半隠遁者は、ここに乗らない。
本書を読むと、
“見えているもの=真実”ではない
感覚が鍛えられる。

やること(簡単)
日々のニュースやSNSで、
1日1回だけでいいので、
こう自問する。
「いま“語られていない側”は誰だ?」

実践②「帝国スケール」で自分の生活を俯瞰する

本書は、島国の国内史に閉じず、
帝国の広がりで問題を見る。
これ、半隠遁の家計にも効く。

家計も生活も、だいたい“局所最適の物語”で破綻する。
「節約=善」「投資=正義」
みたいな単純化は、
気持ちいいけど危うい。

やること(半隠遁版・帝国俯瞰)
支出を3分類して、月1で眺めるだけ。

  • 生存費(固定費・食費・健康)
  • 未来費(学び・技能・道具)
  • 世間費(見栄・同調・ストレス散財)

“帝国”=自分の生活圏全体を見渡す。
すると、削るべきは
努力ではなく「思い込み」だと分かる。

実践③「英国好き」を“美談”で終わらせない

あなたの文脈だと、
英国流ユーモアや
英国文化への関心が強い。

だからこそ、この本は効く。
英国を好きでいるために、
都合の悪い部分を避ける必要はない。

むしろ逆で、影を知ったあとに
残る愛着だけが、本物
だ。

ここで、
ウィリアム・シェイクスピアの作品に
「ムーア人」を主人公にしたものがある、

などの文化史的断面も、
本書は“通史の中”に埋め込んでくる。

歴史が文化を
上書きしていく感じが良い。


この記事の締め

この本を読んだ後、
「イギリス」という単語の輪郭が変わる。

“白い国”という雑な画像が崩れ、
そこに、時間と移動と
混合の層が見えてくる。

そして気づく。
歴史とは、過去の話ではなく、
誰を中心に置くかという現在の選択だ。

半隠遁者としては、
ここが一番おいしい。

世界を単純化して安心するより、
複雑なまま見て、
距離を取り、生活を整える。

その方が、
だいたいのことは長持ちする。

ABOUT ME
factory-workers
31歳 工場労働者 孤独と自由を設計し、 歴史と小説を通して 世界の“構造”を語る人。 半隠遁ライフ / 日本史講義 J-POP考察 / 小説はKindleで販売中。