諸君、いよいよ出陣の時である。徳島を西進し、四国山地を目指す。極貧のため、往路は下道を使用し、金銭を節約する。これも極貧旅行家の定めである。しかし、昨今、ガソリンの価格が高騰しているため、文字通り、家計が焼き尽くされそうな勢いだ。だが、旅行はやめられない中毒性がある。全国病床委員会に「旅行中毒症候群」の病名を提唱したい。自らの貯蓄を切り崩してでも、新しいものを発見しに行く冒険心。いくつになっても忘れたくないものだ。
我が精鋭!
進撃せよ!
森羅万象の加護が
我らに味方する!
諸君、森羅万象、八百万の神々が私たちに味方している。勝利はわが手にあり、だ。ただ目的地に向かって前進するのみ。そこに光は見えてくるだろう。臆せずに進もうではないか、たとえ相手が強敵の高知県であっても。
徳島西進 ~晴天の加護~
威勢を張ったものの、出鼻をくじかれる。前日の長時間労働で、大打撃を受け、出発が遅れる。しかし、戦線を立て直すのも、司令官の務め。諸君、慌てることはない。寝坊を後悔する時間はない。戦局は絶えず変化していく。これに対応していく臨機応変が必要なのだ。
人間、多少の間違いは犯すものだ。
高知遠征は2度目。前回は、徳島を南下し、海沿いを進軍。室戸岬を陥落させ、高知を西進。愛媛県との県境まで歩を進めた。まあ、車ではあるが。
先の遠征は、初高知のため、大自然に圧倒されてしまった。雄大な太平洋、そびえ立つ四国山地、両者の挟撃に苦しめられた。ここまで大きな迎撃作戦を考えていたことは、想定になかった。しかし、私も歴戦の敗北者である。なんとか戦いを切り抜けることができた。
開戦の時!
汝の武運を祈る!
西進を開始する!
寝坊の苦難を乗り越え、進軍開始。晴天の加護の下、アクセルを踏みこむ。徳島の吉野(よしの)川を遡り、徳島平野を進む。非常に気持ちのいい休日である。ここまでの休日が今までにあっただろうか。広大な平原と豊かな河川、このマッチングはたまらないものがある。
孤独旅行者の十八番、車内の孤独空間をいかに埋めていくか。ポルノグラフィティさんの出番です。ヒトリノ夜をじっくりと聴いていく。youtubeのラジオや最近、トレンドの朗読サービスを活用していく。途中でコンビニにより、柔軟体操と筋トレ、水分補給を十分に行う。
1時間と少しで、三好(みよし)市に突入。かの有名な三好長慶の出身地。徳島の蜂須賀氏ではなく、市の名前に三好が使用されているところを見ると思いの強さが伝わってくる。
祖谷(いや)の渓谷:大歩危(おおぼけ)・小歩危(こぼけ)をずんずんと進んでいく。ここは、心身を浄化する美しい渓谷。見物者を虜にする「魔境」。多くの人々がこの魔境に魅せられていったのだ。
1時間半ほどの行軍で、小休憩を取る。メリハリ大事。大自然を前に、ネスカフェで、呑気に乾杯。眠気には、カッフェーの魔力が必要。山村のコンビニで、晴天の中、カッフェーをキめる。まさに、至福の時である。虐げらるる労働から解放され、束の間の急速に浸る。しかし、それは、絶望へのカウントダウンでもある。いずれ刻苦はやってくる。備えなければ。
小腹が空いたので、調達しておいた、半額食パンをかじる。徹頭徹尾、貧乏旅行物語。小冊子にして、出版しよう。旅が本格化した昨今では、多くの旅のスタイルが存在する。その中で、一躍、暗い光を放つのが、私の行う極貧旅行物語である。この底辺感が良いんだよぁ。これがいつのまにか快楽へと発展する。どこまでも沼が私を待っている。
交通費も、宿泊費も、食費も、削りに削っていく。圧倒的に削り落とす。鰹節の如く。勤倹貯蓄に日常生活を送り、この旅行の舞台においても、吝嗇を発動する。貧乏性が永続的に発動している。これは、もう呪いなのではないだろうか。金銭の消費に吐き気を催してしまうほどの病魔だ。この病魔を振り払うのではなく、がっちりとホールドしつつ、共存していく。これが私の描く理想像。しかし、私自身が飲み込まれる可能性もある。その時は、この世界からの旅立ちとなるだろう。
「何のために旅行しているのか?」
諸君、このような奇人も、世の中に生息しているのだよ。世間から隠れるようにして生きている、隠棲型貧乏旅行家がね。大型連休のため、血族団、峠ライダー部隊、観光旅団で混雑している。やはり、皆が皆、憩いの地を求めているのだ。それは、この世界が苦痛を伴うものであるという証なのではないだろうか。
集団を横目に、グイグイと軽食を進めていく。みなぎるエネルギー、高まる血糖値。急激な血糖値の上昇は体にあまりよろしくないが、しかし、四の五の言っていられない。ここは私にとっての戦場なのだ。まだまだ宿敵:高知の背中は遠い。気を引き締めていくことだ。
さあ!
静観の時間は、
終わりを告げた!
進軍の時間である!
山岳のオアシスに別れを告げ、行軍開始。陽の光と深緑が気持ちいい。だが、休戦協定は破られた。ここからは、高知とのぶつかり合いが始まる。高知に近づくにつれ、諜報員も私を監視しているだろう。目立たずに、隠密活動を貫いていく。
高知越境 さらば四国山地
四国山地を前に一句。最近、折に触れて、自分の感情や目の前の情景を、俳句に読むことがある。17文字という制限の中で、いかに内側からあふれる感情を表現するか。プロアマ、上手下手ではない。文字に情熱をかける。あふれる感情を文字にぶつける。その感情を制御する必要はない。持てる力を、脳みそを振り絞り、文字を紡ぐのだ、諸君。そこには、滴る水のごとく、諸君がぽつぽつと表現されていく。
深緑の
山を横目に
踏破する
進軍開始から2時間少々。徳島の国境を越え、高知に突入。ついにここまで来たのだ、諸君。険悪な山野を超え、苦悩の中を私たちは進んできた。千本の針のように、身に降りかかる苦痛、天より与えられし悪夢、まさに恩寵である。
「しかし、油断は禁物。多くの大人物が、偉業を前にして、苦杯をなめてきた。私も例外ではあるまい。」諸君、歴史は私たちに語り掛ける。今だ五合目。これまでに、幾人の偉人が転げ落ちたことだろう。二の舞になってはいけない。経験に学ばずに、歴史に学んでいこうではないか。知は力なり、されど、活用しなければ荷物なり。
ここからは、高知での諜報活動。最初の拠点は、
「大豊町(おおとよちょう)」
四国山地の只中、深緑の美しい谷間に住宅が集まっていた。ゆったりとした、居心地の良さそうな街並み。スッと通り過ぎてしまいそうな秘境の町。しかし、こういう町こそ、何故か惹かれてしまう。自然の中にひっそりと生を育んでいる人々。自然との共存、対立、葛藤。様々な感情がこの町にも存在している。全身で受け止めるのだ、諸君。
旅路の最中に、見かけた町々の現状を知っていくことも1つの楽しみ。
百聞よりも一見。
初見の街を眺めていると、どうにも心が高ぶってくる。だが、士気を高めつつも、運転は冷静沈着に。命あっての物種さ。なんやかんやで、細く長く生きていくのが、良いのではないか?線香花火のように、また打ち上げ花火のようにパッ弾けるのもいい。しかし、備長炭のように細く長く生きていくのも悪くないぞ、諸君。そして、我が軍は、堅固な峠へ。
しかし、この装甲車は歴戦の強者、13万キロを走破した孤高の勇者。この程度の峠では、ビクともしない。峠を攻めているライダー小隊と遭遇。山道を難なく突破する機動力には、舌を巻く。彼らも激戦を潜り抜けてきたのだろう。
おお!
我が詩神よ!
彼らに、
満願の祝福を!
峠を越えると、遂に四国山地が終わりを告げる。視界がグググと開けてきた。四国山地を切り裂き、高知平野に突撃する。文字通り、大きな山を一つ越えたことになる。平地に戦場を移し、市街戦となる。ここからは山岳戦法から大きく変化を求められる。変幻自在の高知戦。油断はできない。張り詰める緊張。糸はまだ切れていない。
美しき四国山地!
さらば!
いずれ再会を!
最初の平地地帯の香美(かみ)市に参上した。ここからは、平地での作戦。今までの山地を活かした隠密は厳しい。高知軍の監視網も厳重。油断は一瞬たりともできない。
初めの攻略拠点は、南国(なんこく)市の
「高知県立歴史民俗資料館」
四国の覇者、長宗我部氏との戦い。彼らも戦国の強者。特に、徳島県民にとっては因縁の相手になる。土佐一国をまとめ、大いに勢力を振るった長宗我部元親。相手にとって、不足はない。諸君、心してかかろう。阿波衆と土佐衆、どちらに軍配が上がるか。
開戦の鐘が響く!
戦場は近い!
諸君!武運を祈る!